東京高等裁判所 昭和26年(う)3385号 判決
原判示のような被告人の住家の一部である二階十畳一室、階下六畳二室に佐藤繁広が居住し、その居住期間の一部たる昭和二十三年十二月から昭和二十四年五月までの間同人から被告人が一箇月金三百円ずつの金員を受領したことは、原判決援用の証拠上明らかである。
しかしながら、記録に顕れた原審公廷における証人二宮信子、同近藤ミヨ子及び被告人の各供述内容、証拠物たる「覚え書」の内容及び当公廷における被告人の供述を総合すれば、被告人は、昭和二十三年十一月中右家屋をその所有者であつた二宮芳正から買い受けたものであるが、右家屋居住者佐藤繁広は、その前年たる昭和二十二年五月中から二宮芳正との間に右家屋の売買成立の際はこれを明け渡すべき旨約定して居り、被告人が右家屋を買い受けた際にも、右約定に従つてこれを明け渡すことを被告人に約していたものであるが、適当な引越先の見付からないままその明渡が遅れていたものであつて、そのため、このまま居住を続けることは心苦しいとて、明渡の遅れていることによる損害金として被告人に前記金員の受領を求め、被告人もこれを辞退したものの、結局相手方の意を諒承してかかる趣旨のもとにこれを受領するに至つたことが認められるのであつて、被告人が該金員を前記家屋の一部の賃貸による借賃その他の財産上の利益として受領する意思であつたとは認められないばかりでなく、その他地代家賃統制令に関する脱法行為を意図したものとも認められないから、本件については、被告人の犯意を認め得ないものであつて、その犯罪を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるものと言わなければならない。
(後略)